2025.05.01
グラフィックデザイン学科
この模様,何か分かりますか?
これなら分かりますか?そう,三越の包装紙です.あまりにも見慣れているので,これが実は優れたデザイン,アーティストの仕事で,しかも丸亀市出身の画家がデザインしたことを知らない人も多いのではないかと思います.
その人が,猪熊源一郎さん.
戦後の日本の復興期から建築家や彫刻家などの「ものづくり」に関わる人たちとこれからの社会のあるべき姿を模索しながら制作を続けました.
現在,丸亀市の猪熊源一郎現代美術館で開催されているのは,その「いのくまさん」の人生を振り返る展覧会.作品の展示というよりは,どういう人たちと関わり,どういう時代にどんな思いで仕事をしてきたか,という,ひとりのアーティスト/デザイナーとしての人生を振り返っています.
左の写真は,香川にも住んでいたことのある彫刻家イサム・ノグチさんと,牟礼にある庭園美術館などで過ごしている時の写真など.
イサム・ノグチはニューヨークとここ香川(牟礼)にアトリエを構えていました.庵治石がノグチを魅了したと言われますが,こういった人とのつながりが背景にあるんですよね.
そしてこれは何か分かりますか?そう,世界的な建築である,丹下健三による香川県庁舎の1階ロビーの大壁面を飾るレリーフの試作品(模型)です.ひとつひとつに,県民や社会への想いが形となって試行錯誤されているのです.
香川という土地に戦後の日本デザインのあらゆる分野の最先端が集結していた,ということがよく分かります.
美術館のエントランスの彫刻(もちろん,いのくまさん作です)は,子供たちが遊ぶ遊具にもなります.いのくまさんが見たら,あの愛らしい笑顔でほほ笑むことでしょう.
展示の最後のパートでは,いのくまさんの絵に,詩人の谷川俊太郎さんが言葉を付けた絵本をもとに,大きな空間で歩きながら絵本の読む体験とともに鑑賞できるスペースがあります.谷川さんの言葉といのくまさんの絵が優しく鑑賞者を包み込みます.
いのくまさんは,画家・アーティストと呼ばれていますが,彼の作品が建築や空間の一部としてメッセージと共に現れるとき,それはひとつのデザインだとも言えます.それは社会と人々の理想の姿,自由であることの尊さを伝えてくれます.
香川から世界へ飛び立ったいのくまさん.若き頃に出会った,建築など他の分野の人たちとの親交を重ねることで,自分の仕事や作品の幅も大きく変わっていきます.
展示会では,そういう建築家や彫刻家など,いのくまさんと縁のあった人たちからの手紙,当時のプライベートな写真,掲載された雑誌などがふんだんに展示されていて,デザインやアートに関心がある人,そして特に香川に縁がある人にはぜひ見てほしい展覧会です.
他の専門分野と繋がりを持つことがいかに大事かということも再認識します.
いのくまさんの生涯に渡る親交と作品への想いを知ることができる展覧会は,丸亀市猪熊源一郎現代美術館で,7月6日まで開催中.